漆工芸家 攝津広紀さん

漆工芸家 攝津広紀さん

800年の歴史ある漆器の産地「秋田・川連」。漆工芸を家業とする三代目の攝津広紀氏は、分業制が主流の漆器業界で、下地から仕上げまで一貫した手作りにこだわり、真の色艶を追求する。2008年全国漆器展経済産業大臣賞を受賞後も数々の受賞歴がある。

川連という土地を超えて活動する攝津氏に、これまでの軌跡と、今後の課題をお聞きした。

父親とは違う土地で修業。輪島時代を経て金沢で独立

漆工芸家 攝津広紀さん
漆工芸家 攝津広紀
漆工芸家 攝津広紀

ーー 作家インタビュー ーー

家業を継ぐというのは、目の前に道が開けているという未来と当時に、本人しかわからないプレッシャーがあると思います。家業を継ぐ前の道のりを教えてください。

「三代目に生まれてきて、小さい頃から何となく、後を継がなければならないのかなという感覚でした。

やるからには親父を超えたいと思っていたので、親父が修行した会津若松ではなく、輪島を選びました。高校を卒業してから輪島にある石川県立輪島市漆芸技術研修所の初心者コースに入所しました。同期が10人で、中には美術学校を卒業して漆作家を目指している人もいたりと様々な人がいたため、刺激をもらいましたね。

3年目からの専門コースに進んでからは、漆芸家の寺西松太氏に師事して、物作りに関する様々なことを学びました。寡黙で、どちらかといえば作家に近い寺西氏から現場を経験させていただいたことは大きな収穫でした。

5年間後に金沢に移って独立しました。誰も知り合いがいない土地で一から仕事を見つけるというのは、営業と同じこと。お客さんを獲得する術を肌で学び取りましたね。物作り以外の対応力も磨かれたと思います」

金沢時代の収穫はなんですか。

「加賀蒔絵や金沢仏壇蒔絵を学んだことです。30歳になったら、地元に戻ると決めていたので、1999年に湯沢に戻って、三代目の蒔絵師になりました」

 地元に戻ってからグループ展開催が飛躍のきっかけ

 地元に戻ってから、若手グループを作って活動しています。

 「家業を継いだわけですから、先代からの取引先はありましたが、明るい未来は見えなかったため、自分でデザインから仕上げまで全て手掛ける作品作りも始めました。

また発表の場を設けることによって、お客さんの獲得にもつながるので、同じ志を持つ仲間と一緒に「「漆人五人衆」を結成して、秋田や仙台、東京など各地でグループ展を開催しました。メンバーは変わりましたが、グループ展は今でも継続しています」

 志を同じにするグループで動いてみて、変わったことがありましたか。

 「それまでは業者から蒔絵の発注をもらって作っているのとまるで違うことがわかりました。自分でオリジナル作品を作って発表することによって、お客さんと直接話す機会が生じると、使い手目線の気づくことが増えたんです。

作り手が思っている美学やこだわりと、お客さんが望んでいることが融合されることがわかり、中にはお客さんの影響が大きくて、お客さんの意見で商品が生まれたこともあります。

一方、お客さんの要望通りに微調整していくと、自分らしさというオリジナリティが失われていくのではないか、薄くなってしまうのではないかと葛藤したり模索したり。その繰り返しですね。

でもそれは軸がなくてふらふらしているのではなく、周期的に葛藤したり模索したりする時期があるということです」

 真の色艶は作り手と使い手との合作

 真の色艶の追及を掲げていますが、攝津さんが目指す色艶とはなんでしょう。

「漆工芸のベースは木です。木にどれだけ漆を吸い込ませていくか、漆を塗りこんでいくかというのが大事なことです。使い手さんには表面しか見えませんが、見えない部分をしっかり塗り込んでいき、最後に自分の手で磨き上げることで作り手の艶ができあがります。

色艶は生き物であるため、年月を重ねて出てくるものと言えます。そのため作り手だけでなく、使う側も一緒になって、色艶を作り出していけるんです。

使い込んでいる年月が経つと、漆には自然の柔らかい艶が生じます。これはお客さんに育ててもらっている艶です。

写真ではなかなか伝わりにくいため、実際に展示会に足を運んでくださったお客様に見せると、「なるほど!」と納得してくれたり、お客様も色艶を育てていくことがわかると感動してくださることもあります」

 色艶は作り手だけでなく、使い手も作り出す。良い言葉ですね。ところで後継者問題で取り組んでいることはありますか。

「自分が頑張った先に、答えが待っているという状況が必要だと思います。やりがいのある仕事をして、人並みの生活が出来るイメージが見えれば、自然にやりたい人が集まってきて、後継者問題は解決できるのではないでしょうか。

そのためにまず自分が工芸家の未来が明るいとアピールできるような、モデルを作り上げることが大事だと思っています」

 今後の課題は何でしょう。

「去年からオーダーメイドが増えました。個展の依頼もあって嬉しいのですが、作品を作る時間があるかどうか。やる気満々ですが、時間との勝負でしょうね。

また自分らしさ、オリジナリティをさらに出していきたいですね。目に見える部分も、そして見えない部分もね」

TEXT:夏目かをる)

                         



 

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