漆芸工房 齋藤國男さん

漆芸工房 齋藤國男さん

伝統漆器を基調しながら、現代的な要素を取り入れた新しい作品の開発に取り組んでいる「漆芸工房 齋藤」の齋藤國男氏。

今年で82歳になる齋藤さんは漆芸歴64年の大ベテランだ。幾層にも重ね塗りした器面を研ぎ、多様な文様を創出する「研ぎ出し技法」という技法が特徴的で、多くの作品を生み出す齋藤氏は、現代の名工と称される。

平成20年、国の卓越技能者賞を受賞。同年、秋田県芸術文化章受章した。そして平成22年黄綬褒章受章、平成26年秋田県文化功労者なるなど、秋田県の漆工芸の第一人者だ。

齋藤さんから、漆作品作りの苦労と喜び、後継者問題、80歳を過ぎても元気な秘訣などをお聞きした。

多種多様の漆の技法の取得は、膨大な時間が必要

漆芸工房 齋藤國男

ーー 作家インタビュー ーー

齋藤さんが漆と出会うまでのことを教えてください。

「出身は由利本荘市の岩城町で、中学を卒業してから職業訓練校に通ったんです。1年間勉強してから、秋田県の生駒漆芸工房に入り、40年間、漆の世界で没頭してきました。

工房は流れ作業ではないため、一人で全部の工程をやれるようになるまで、15.6年ぐらいかかりましたね。

漆には多種多様の技法があるため、習得するまで時間がかかります。20年ぐらいかかって、上塗りを身に着けるなど、それなりの時間がかかるということです」

漆の主な技法を教えてください。

「代表的なものは「生漆」、「呂色漆」、「朱合漆」、「黒中漆」があります。呂色漆は漆を塗り重ね、研いで磨いて仕上げるため、時間がかかります。生駒工房に在籍していた頃、朱合漆は仕事が終わってから、勉強して取得しましたね。

仕上げの「花塗」は、朱合漆の場合、乾燥油を混ぜた艶のある漆を使用します。

他に金粉等を蒔いて文様を出す「蒔絵」や、夜光貝やアワビなどの殻の真珠層の部分を削って薄い板状にして、文様の形に切ってかから塗面に貼ったりはめ込んだりする螺鈿(らでん)や、卵殻(らんかく)といって、漆で模様を描いた上に、ウズラなどの卵殻を細かく砕いてから貼り、漆を塗り込み研ぎ出す技法や、漆の塗面に沈金刀で文様を作る沈金という技法は、刻んだ部分に金箔や金粉を擦り込んでいくものです」

齋藤さんが得意とする「研ぎ出し技法」とはどのようなものですか。

 「油分を含まない蝋色漆を塗って、炭や角粉で磨き仕上げる技法で、何度も塗り続けていくうちに艶が出てきます。ものによって違いますが、20回以上研ぎ出し技法で模様をつけていきます。

また絞漆(しぼうるし)の場合は、豆腐を使います。豆腐の水分を取り出して、漆と混ぜると液体が少し乾くので、表面がでこぼこになったところをへらで模様をつけていきます。24時間以内に乾かしてから朱を塗り、それからまた24時間おいて、今度は青色を塗るなど、幾層も塗り重ねていき、乾いてから耐水ペーパーにて研ぎ出し技法によって模様を出して、磨きに入るなど工程はだいたい10日間ぐらいかかるんです。

下地から中塗りまでの30ほどの様々な工程があり、一か月ぐらいかかりますね」 

漆工芸を続ける喜びは苦労を吹き飛ばす

一つの作品を作るうえで多種多様の工程と時間がかかるということですね。

苦労しているところと、漆を作り続ける喜びはなんでしょう。

 「苦労は毎日のようにありますよ。一番の苦労は湿気ですね。漆は生き物なので、湿気に左右されますから、梅雨の時期は調合がかなり難しくなります。

それからゴミがつかないように気を付けなければならない。神経を使いますね。

でも一方で、家の中で制作するから通勤の面倒はないし、作りながら対面販売も行っていますから、お客さんから学ぶことも多いです。

出来上がると今までの苦労も報われたような気がしますけど、一度も満足したことがありませんね。

でもおかげさまで続けてよかったと思っています」

 後継者問題については、いかがですか。

 「人を使うのは難しいですね。ですから私は技術の伝承をしています。秋田公立美術大学や短期大学の学生にそれぞれ10年ぐらい、教えています。また子どもから大人までできる体験教室も行っています。」

 気分転換としてやっていることは何ですか。

「朝の散歩と、休みの日のドライブやゴルフでしょうね。また夜の晩酌が楽しみ。缶ビール350mlと焼酎を少しだけですが。

また仲間と一緒に技術向上のための交流会なども、学びの場として重宝しています。日々勉強だと思っています。

毎日工房に行って制作し、販売会でいろいろな人たちと話して、発見したり活力をもらったりして、また工房で制作する。同じようなローテーションですが、毎日やることがあるので、励みになりますね」

 

                         (TEXT:夏目かをる)

 

 

 

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