秋田銀線細工 矢留彫金工房

秋田銀線細工 矢留彫金工房

細い純銀の線をより合わせて幾重もの渦巻や波線のパーツをつくり、組み合わせて形づくっていく秋田銀線細工。

秋田を代表する伝統工芸品の一つで、江戸時代に秋田藩が鉱山を開発し、城下で金工が盛んに行われていた。明治・大正時代にも、秋田県の鉱山は日本有数の金や銀の産出量を誇り、金工職人も多かったが、鉱業の衰退と共に、金工職人も激減していき、次第にすたれていった。

平成になると秋田銀線細工も職人が秋田県内で10人を切るなど、後継者問題にあえいでいた。だが2019年、年代が違う三人の女性たちがさっそうと登場、タッグを組み、矢留彫金工房がオープンした。

 工場長の松橋とし子さん、副工房長の小林美穂さん、髙𣘺香澄さんに、工房オープンまでの道のりや秋田銀線細工の魅力、次世代に繋ぐために取り組んでいること、今後の課題などをお聞きした。

三人の出会いが秋田銀線細工の運命を決めた



ーー 作家インタビュー ーー

三人がタックを組むようになった経緯を教えてください。

高橋「2018年に秋田商工会議所が主催した『銀線細工の企画展 北の燦めき』の会場で松橋さんとお会いしたことがきっかけです。秋田のものづくりに貢献している別のジャンルの職人さんが、『秋田銀線細工』を未来に繋いでほしいという熱い気持ちで、私と松橋さんをつなげてくれました。ちょうど小林さんも来場者として会場にいて、松橋さんとかつて秋田銀線細工の製造や販売の宝飾店の元同僚だったため、三人でスタートすることになりました。

私は秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科を2019年に修了して、矢留彫金工房でお二人の先輩から技術を教えてもらいながら、職人として活動を始めました。私が秋田銀線細工に出会ったのは、中学生の時に秋田公立美術大学の前身である秋田公立美術工芸短期大学(現:秋田公立美術工芸大学)が主催したワークショップです。その後、秋田公立美術工芸大学附属高等学院に入学し工芸の基礎技術を学びました。大学は新潟にある長岡造形大学に進学したのですが、ゼミの先生が「凄い技術が秋田にあるんだね」と銀線細工を高く評価してくれたこともあって、秋田に戻り、秋田銀線細工に向き合うと、さらに表現の可能性を感じることができました。

小林「私と銀線細工の出会いは、中学の時に「秋田ふるさと村」に展示された作品を観て感動してからです。その後秋田公立美術工芸短期大学附属高等学院と秋田公立美術工芸短期大学を卒業してから、秋田銀線細工を製造販売している宝飾店で同僚だった松橋さんから技術的なことを教えて貰いました。その後いったん退職をしてから知人を介して松橋さんと再会して、秋田銀線細工の職人が不足しているということで、一緒に盛り上げようということになりました」

松橋「美術専門学校のデザイン科を卒業してから、秋田の老舗宝飾店で35年秋田銀線細工の製造に携わり技術の修得と向上に努めてきました。その後、『秋田銀線細工の企画展 北の燦めき』で改めて現状を再認識し、課題解決に取り組もうと決意しました。秋田市内の職人も数えるほどの人数の中、自分1人では中々踏み出すことが難しかったのですが、企画展をきっかけに秋田銀線細工の職人を目指す二人や協力していただける方々と出会えたことはとても幸運でした。
二人ともしっかりしているのでとても頼りになる存在です。」

秋田銀線細工の魅力と、作るうえでの苦労を教えてください。

松橋「0.2から0.3mmという細い純銀線を撚り合わせて、ピンセットと指を使って巻きながら形が生まれます。全て手づくりのため繊細で美しい作品が完成します。」

小林「材料が柔らかく、細かい意匠を施せる純銀だからこそ、美しく繊細な作品が数多く残されていると思います。銀線細工の工程になかで、ロウ付けという溶接作業がありますが、火を当てすぎると溶けてしまう恐れがあるので、いかに短い時間で作業をやり抜くことが大事です。ロウ付けの作業に苦労していますね」

高橋「ロウ付けは確かに難しく、失敗すると1からやり直しなので恐ろしい作業です。それでも様々な形を作れるということで可能性が広がります。私が一番難しいと思っているのがデザイン案を考えることです。抽象的なデフォルメで作るときにどんなシーンを想定するかというイメージ作りも必要になってくるので」

母校での銀線細工プロジェクトを通して新たな作り手の発掘と育成

後継者問題はいかがですか。

高橋「私たち3人の母校でもある秋田公立美術大学附属高等学院の生徒の中から希望者を募って、月一でワークショップを開催しています。主に2年生が参加しており、1年を通して作品制作に取り組むのですが、3年生に進級してからも銀線細工の技術を用いて卒業制作に奮闘する生徒もいます。
また、私は同校で非常勤講師としても勤めているので、高校生が銀線細工に触れる機会を増やしています。職人になりたいという生徒が出てきたらサポートしたいです」

これからやりたいことや課題はありますか。

松橋「これまでアクセサリーや小物が多かったのですが、これからはオブジェなどインテリアとマッチするような大きな作品も作ってみたいです。

矢留彫金工房のコンセプトとして普段使いできるアクセサリーを製造していますが、もっとデザインの幅を広げていきたいですね。」

 

小林「秋田銀線細工はアクセサリーが多くありますが、今後は文具系の物も製作してみたいと考えています。また、お手入れの部分がネックなイメージが強いと思うので、当工房でもアフターケアや修理など柔軟に対応しておりますが、少しでもお客様ご自身でお手入れしやすいデザインと製作を心掛けて行きたいと思います。」 

高橋「秋田銀線細工は大ぶりのブローチが多いというイメージがありますが、若い人に手に取ってもらえるような身近なジュエリーブランドにしていきたいです。
また定番商品の製造だけではなく、オーダーメイドやセミオーダーにも対応できているのは、年代や作風が異なる3人がいるからだと思っています。県内外多くの方々に矢留彫金工房の活動をお伝え出来るように、SNSなど時代に応じた方法で情報発信に力を入れていきたいです。」

 

松橋「矢留彫金工房ではお客様からの依頼品を制作しながら、メンバーそれぞれの特性を活かした商品開発に取り組んでいます。また、工房内での活動だけだはなく、個人的な作家活動・作品制作などにも挑戦し、展示会に出品していきたいと考えています。
地域とともに魅力ある活動や成果を作り出す役目を果たしていけるようにしっかりと歩んでいきたいです。」

                         (TEXT・夏目かをる)








 

 

 

 

 

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